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2011. 08. 19  
 『難経』の謎解きと未病治
             大阪 福井 仁照

問題の所在
日本の鍼灸界において難経ほど重要性が指摘され治療方法論の根拠として引き合いに出されているものは他にありません。しかしながら現状は一貫して『難経』を解釈したものがなく、難解であり臨床的には応用しにくいためか、一部の難を他の難と関連性もなく抜粋し、都合の良い解釈をして臨床に使用している事が多々見受けられます。その要因の1つは、難経の通行本である『難経集注』(慶安本)や滑伯仁の『難経本義』また日本における『難経本義大鈔』『難経鉄鑑』『黄帝八十一難経疏証』などの解釈本が「一難」から「八十一難」までを「脈法論」「臓腑論」「病症論」「鍼法論」と編纂し、ただ脈絡もなく番号順に解説されているためです。そのために全体象が捉え難く辞書的な引用を余儀なくされているからです。

『難経』をどう読み解くか
そこで一難から八十一難の順序で読み解かずに、丁錦の『古本難経闡注』加藤萬卿の『難経古義』唐湘清の『難経今釈』などに見られるように、一部臨床に応じた順序で解読することによって、『傷寒論』が「温熱」や「傷寒」を含めた外感病に対して「病位」「病症」を段階的に分類した湯液処方であると同様に、『難経』も四時の外感病に対して「脈状診」を中心に時邪伝変を段階的に分類した未病治を目指した鍼灸処方であることが読み取れてきます。

四時の外感病と時邪伝変
例えば「七難」では四時と六気の旺脈の関係を示し、「四難」では六気と六臓の脈の関係を表しています(『薬註難経』解釈参考)。また「十三難」では望診と切診(脈状診、尺膚診)の一貫性から四時の変化を述べ、「十五難」では四時の旺脈から病脈、死脈を論じています。さらに「十難」では時邪による伝変と剛柔関係を脈状の「甚」「微」から「臓への伝変」か「腑への伝変」かの判断も示唆しています。更に「五難」において「五体論」と「脈状」の関連性から「菽法脈診」によって「時邪の伝変」がいずれの臓腑経絡を侵しているのかの判断も示しています。
具体的には「病症論」の「四十九難」では「正経自病」と「五邪所傷」の違いを述べ、「心病」を例に「時邪の伝変」と病症の関係を其々五邪の病候として示しているのです。
また「鍼法論」では、現状の解釈とされる「迎随補瀉」とは針尖を流注に従うか逆らう手法(「元」の『鍼灸四書』による。)と考えられていますが、「七十二難」、「七十九難」では「迎随補瀉」とは病蔵に随い病邪に迎かう「母子の補瀉」であることが詳しく説明されています。
さらに現鍼灸治療の基本補瀉配穴の根拠とされている「六十九難」を関連して読み解くことで、四時における「旺気蔵」の病症を「正経自生病 不中他邪也 当自取其経」と示し、旺気時の前半期に最も精気が虚している「休気蔵」(旺気蔵に対して母に当たる)が実邪に侵されることを防ぐ目的で、精気を補すことを「補其母」と示し、また季節の後半期に、旺気蔵の精気が衰退し始める頃に旺気蔵を脅かす相気の「時邪」の邪實を防ぐ目的で「瀉其子」(次の時邪は旺気時の子にあたる。)と解釈できます。
また「七十七難」では旺気時の賊邪伝変を見据えて、相剋の蔵を補うことが、未然に「伝変の病」を防ぐ処置であることを示して、時邪による伝変の重要性を「上工治未病」「中工治已病」と示唆しています。
他に「五十六難」では時邪の伝変が四時によって繰り返し積み重なってゆく「五蔵の積病の発生と成り立ち」を解き、その病蔵と発生メカニズムの根源が「六十九難」の「実邪伝変」にあることを示唆しているのです。


七十五難の謎
そこで今まで解釈が謎とされてきた「七十五難」の処置が単に五蔵の相生相剋の法則でなく病邪、病候から処置を判断して「五蔵の積」からの発病に対して、事前に、「六十九難」の応用として「七十五難」を以て対応する処置であることが読み取れてきます。
この判断は難経の基本原則である五行の相生相剋関係に基づく「当更相平」パターンや「脈状診」の診断ではなく、「五十五難」「五十六難」に於いて陰病である肝之積(肥気)がまさに「春適旺」の状況となり「七十五難」の「欲令金不得平木也」状態に当たります。(『難経本義』では「不字疑衍文」としている)そこで「六十九難」の迎随補瀉の発展型解釈として、肝之積が風邪を受けることで更なる腎水への実邪伝変を防ぎ、次の時邪である火邪によって肝之積が発病することを防ぐ目的で、「木の母である水を補い、子にあたる次の時邪の火を瀉す」ことが陰病(積之病)が更なる時邪によって発病することを防ぐ方法として「七十五難」の未病治の処置を示したのです。

八十一難の謎
この診断と処置は、12000字弱の内、有に6000字強を「脈」に費やして、五行の相生相剋理論から病症の予後や伝変を脈状診を以て解説している『難経』に於いては一貫性を欠くことになるため、あえて「八十一難」に於いて「肝実肺虚」と「肺虚肝実」を例に出し、「非謂寸口脈也 謂病自有虚実也」と結語しているのです。『難経』の全体象としては「五行法則を基盤とした脈診の有用性」を説いておりますが、結語で「補瀉の決定は脈に従うのでは無く、病そのものの虚実に従うべきである。」と記述している謎に至るのです。
他にも「十六難」において「脈診」の「証」が「外症」「内症」「病症」と一致しなければ「脈診」だけで判断してはならない事や「十二難」で「陽絶補陰 陰絶補陽・・・医殺之耳」として安易な補瀉判断を戒めています。

陽病と陰病に対する未病治
つまり陽病である「時邪」による「外感病」とその伝変病症は「脈状診」を主体とした五蔵の相生相剋法則によって判断し対処できるが、陰病である「五蔵之積病」は脈診では誤り易く、例として「肝実肺虚」と「肺虚肝実」を出し、「肝の精気」が、「微少気」であることが「脈状診」では誤りやすく、「実実虚虚 損不足而益有余 此者中工之所害也」と示し「八十一難」で戒めているのです。
陰病の具体的未病治としては「七十五難」において「瀉火補水」を明記していますが、これは汪昴の『医方集解』にも見られるように湯液では「瀉火補水」の処方は、補養之剤(腎)と瀉火の剤(心)の処方であり、「陰虚火動」に対する処置でもあります。病理的には、「陰虚」は「虚火」を生じ「痰・飲・瘀」といった病理産生物を生じます。これを未然に防ぐ意味からも病理的鍼灸処方としての「七十五難」型を表したと考えられます。この法則は陰病である「五蔵之積」全てに於いて「時邪」による発病に対応できます。
つまり「発病時の時邪を瀉して、その旺気蔵の相剋の蔵を補う」と解釈することによって「五十六難」の積の伝変要因の蔵を助けることになり、積の発病を阻止する未病治になるのです。

結論-『難経』の全体像
以上から『難経』の全体象は、四時の外感病を「陽病」として「脈状診」を中心に相生相剋関係から「六十九難」や「七十七難」の母子相剋の要穴補瀉と「六十七難」の募穴で対処し、積病「陰病」に対しては病理病症を主体として診断して「七十五難」の要穴処置「六十七難」の背兪穴で対処させてゆく一貫した未病治の鍼灸療法であることが伺えてくるのです。


補)
内容は当日掲載の前のオリジナル版です。項目分を当日分より加えました。
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プロフィール

関西漢法苞徳之会

Author:関西漢法苞徳之会
『素問』『霊枢』『難経』に基づき、『傷寒論』『温病学』『現代中医学』をも学び
また日本の漢法鍼灸医学を継承した
<基礎の確かな>
<医の心のシッカリした>
鍼灸臨床家を目指した研修を図るものである。

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